発酵食作りは、正解の味を目指さなくてもいい

味噌、キムチ、ぬか漬け、梅シロップ。

発酵食や保存食を作ってみたいと思ったとき、多くの方が気にするのが、

「ちゃんとできるかな」
「失敗したらどうしよう」
「正しい味にならなかったら困る」

ということではないでしょうか。

特に、初めて作るものは不安です。

味噌はカビが生えたらどうしよう。
キムチは酸っぱくなりすぎたらどうしよう。
ぬか床は変なにおいになったらどうしよう。
梅シロップは砂糖が溶けなかったらどうしよう。

そう考えると、始める前から少し身構えてしまいます。

けれども、発酵食作りは、市販品のように毎回同じ味を目指さなくてもいいのです。

むしろ、作る人や季節、材料、環境によって味が変わることこそ、発酵食作りの面白さだと思います。

市販品の味と、手作りの味は違っていい

市販の味噌やキムチ、漬物は、いつ買っても安定した味になるように作られています。

それは、とてもすごいことです。

いつ食べても同じ味。
誰が食べてもおいしい味。
失敗のない味。

忙しい毎日の中では、そういう商品に助けられることもたくさんあります。

でも、自分で作る発酵食は、そこを目指さなくてもいいのです。

去年の味噌と、今年の味噌が違ってもいい。
冬に作ったキムチと、春に作ったキムチの味が違ってもいい。
ぬか床の味が、季節によって変わってもいい。
梅シロップの風味が、使う梅や砂糖によって変わってもいい。

それは失敗ではなく、自然なことです。

手作りの発酵食は、工場で作るものではありません。

その年の素材、その日の気温、その家の環境、作る人の手。

いろいろなものが関わって、味が育っていきます。

「今年の味」を楽しむ

味噌を毎年仕込んでいると、年によって少しずつ違いが出ます。

同じ材料で作っているつもりでも、大豆の状態、麹の香り、仕込む日の気温、熟成中の環境によって、出来上がりは変わります。

色が濃くなる年もあれば、やさしい味に仕上がる年もあります。

香りが強く出る年もあれば、まろやかにまとまる年もあります。

「去年と同じ味にならなかった」

と思うと少し残念に感じるかもしれません。

でも、

「これが今年の味なんだ」

と思うと、楽しみ方が変わります。

発酵食は、時間とともに育つものです。

そして、その時間は毎年同じではありません。

今年の気候、今年の材料、今年の自分の暮らし。

そういうものが少しずつ味に表れます。

毎年同じ味を再現するのではなく、その年ならではの味を楽しむ。

それも、発酵食作りの魅力です。

「うちの味」が育っていく

発酵食を作っていると、少しずつ「うちの味」ができていきます。

たとえば、キムチ。

辛めが好きな家もあれば、甘みのある味が好きな家もあります。

にんにくをしっかり効かせたい人もいれば、やさしい味にしたい人もいます。

酸味が出てきたキムチが好きな人もいれば、浅漬けのような若い味が好きな人もいます。

ぬか漬けも同じです。

しっかり漬かった酸味のある味が好きな人もいれば、浅漬けのようにさっぱりした味が好きな人もいます。

塩気が強めのほうがごはんに合うと感じる人もいれば、薄めに漬けて野菜の味を楽しみたい人もいます。

どれが正解、ということではありません。

家族の好み。
自分の好み。
食べるタイミング。
一緒に食べる料理。

それによって、ちょうどよい味は変わります。

発酵食作りは、正解の味を探すというより、自分の暮らしに合う味を育てていくことなのだと思います。

発酵食は、変化するもの

発酵食は、生きもののように変化します。

キムチは、作ったばかりの頃は野菜のフレッシュさがあります。

時間が経つと、少しずつ酸味が出て、味に深みが出てきます。

さらに発酵が進むと、そのまま食べるより、炒め物やチゲに使うとおいしくなります。

ぬか床も、毎日少しずつ変化します。

漬ける野菜、気温、水分、塩分、混ぜ方によって状態が変わります。

梅シロップも、仕込んだ直後は梅と砂糖が別々に見えますが、少しずつ梅のエキスが出て、砂糖が溶け、香りが変わっていきます。

味噌も、熟成が進むにつれて、色も香りも変わります。

発酵食は、完成した瞬間だけが正解ではありません。

途中の変化も含めて楽しむものです。

「今はこういう状態なんだな」

「この香りになってきたな」

「そろそろ料理に使うとよさそう」

そんなふうに見ていくと、発酵食作りはぐっと楽しくなります。

失敗が怖いときほど、観察してみる

発酵食作りで不安になるのは、状態の変化がよくわからないからです。

これで大丈夫なのか。
食べてもいいのか。
このにおいは普通なのか。
この白いものは何なのか。

わからないと、すべてが失敗に見えてしまいます。

でも、発酵食作りで大切なのは、完璧に作ることよりも、よく見ることです。

色を見る。
香りをかぐ。
手触りを確かめる。
味をみる。
前回との違いに気づく。

そうして観察していると、少しずつ自分の中に基準ができていきます。

最初から全部わからなくても大丈夫です。

むしろ、わからないからこそ、作ってみる意味があります。

発酵食は、レシピ通りに作れば終わり、というものではありません。

作ったあとに、どう変化するのかを見ることも、大切な学びです。

「失敗」ではなく「調整」と考える

ぬか床が水っぽくなった。
キムチが酸っぱくなった。
味噌の色が濃くなった。
梅シロップの砂糖がなかなか溶けない。

こういうことが起こると、すぐに「失敗した」と思ってしまうかもしれません。

でも、発酵食作りでは、すぐに失敗と決めなくてもよいことがたくさんあります。

水分が多ければ整える。
酸味が出たら料理に使う。
味が薄ければ調整する。
発酵が進んだら、使い方を変える。

発酵食は、変化するからこそ、調整する余地があります。

市販品のように、いつも同じ状態である必要はありません。

むしろ、変化に合わせて付き合っていくことが、手作りの発酵食の面白さです。

大切なのは、失敗しないことではなく、状態を見て、どうしたらよいかを知ることです。

自分の手で育った味は、愛着がわく

発酵食を自分で作ると、出来上がったものに愛着がわきます。

味噌を仕込んだときのこと。
梅のヘタを取ったときのこと。
キムチを漬けたときの香り。
ぬか床を混ぜたときの手触り。

食べるときに、その時間が少し戻ってきます。

ただ買ってきたものを食べるのとは違い、

「これは自分で仕込んだもの」

という感覚があります。

たとえ少し不格好でも、思った味と違っても、自分の手を通して育った味には、特別なうれしさがあります。

上手にできたかどうかだけではなく、

「ここまで育ってくれた」

という感覚。

それも、発酵食作りの楽しさです。

正解の味より、自分の暮らしに合う味

発酵食作りで目指したいのは、誰かに評価される完璧な味ではありません。

毎日の食卓で使いやすい味。
自分がまた食べたいと思う味。
家族が喜ぶ味。
料理に合わせやすい味。
その季節においしいと思える味。

それが、自分にとってのちょうどよい味です。

正解の味を目指そうとすると、少し苦しくなります。

でも、自分の暮らしに合う味を探そうと思うと、発酵食作りは自由になります。

今年の味。
うちの味。
今の季節の味。
自分の手で育った味。

それを楽しむことができたら、発酵食作りはもっと気軽で、もっと楽しいものになります。

発酵食作りは、正解の味を目指さなくてもいい

発酵食は、作る人や環境によって味が変わります。

それは不安なことでもありますが、同時にとても面白いことです。

毎回同じ味にならなくても大丈夫。

去年と違っても大丈夫。

少し酸っぱくなっても、水分が出ても、色が変わっても、すぐに失敗とは限りません。

状態を見て、香りを確かめて、味をみて、必要なら整える。

そうやって付き合っていくうちに、自分の中に少しずつ感覚が育っていきます。

発酵食作りは、正解の味を目指すものではなく、自分の暮らしの中で味を育てていくもの。

その年、その季節、その家、その人の味を楽しむものです。

完璧に作ろうとしなくても大丈夫です。

まずはひとつ、自分の手で仕込んでみる。

そこから、発酵食の面白さは始まります。