夏が近づくと、保存食作りの季節が一気にやってきます。
梅、らっきょう、しそ、みょうが、きゅうり、山椒。
お店に並ぶ素材を見ていると、
「あ、梅が出てきた」
「山椒、今のうちに買わないと」
「らっきょうも漬けたい」
「赤しそが出たら梅干しの準備だ」
と、なんだか急に忙しくなります。
保存食作りは、ゆったり丁寧な暮らしのように見えるかもしれません。
でも実際は、けっこう慌ただしい。
なぜなら、素材の旬は待ってくれないからです。
夏の保存食作りは、季節に追いかけられる
梅仕事をしようと思っていたのに、気づいたら完熟梅の時期が終わっていた。
山椒の実を買おうと思っていたのに、次に見たときにはもう売り場から消えていた。
らっきょうを漬けたいと思いながら、忙しくしているうちに時期を逃してしまった。
そんな経験、ありませんか?
保存食作りは、こちらの都合だけではできません。
「時間ができたらやろう」
と思っていても、素材のほうは待ってくれないのです。
梅には梅の時期があり、山椒には山椒の時期があり、赤しそには赤しその時期があります。
だからこそ、夏前後の保存食作りには、少しだけ焦りがあります。
今しかない。
今やらないと、また来年。
この「季節に追いかけられる感じ」も、保存食作りの面白さのひとつだと思います。
今年の自分が、数ヶ月後の自分を助けてくれる
保存食作りのよさは、仕込んだその日だけで終わらないことです。
梅干しを仕込んでおけば、夏の終わりや秋以降も、毎日のごはんに使えます。
梅シロップを作っておけば、暑い日に水や炭酸で割って飲むことができます。
山椒の醤油漬けや塩漬けがあれば、冷奴、焼き魚、煮物、ごはんものに少し添えるだけで、味がぐっと引き締まります。
らっきょう漬けがあれば、カレーの日が少し楽しみになります。
みょうがやきゅうりを漬けておけば、食欲がない日にも、さっぱり食べられる一品になります。
忙しい日。
疲れている日。
献立を考える気力がない日。
そんな日に、冷蔵庫や棚の中に自分で仕込んだ保存食があると、とても助かります。
「何もない」と思った日でも、保存食がひとつあるだけで、食卓が整います。
つまり、夏に仕込む保存食は、未来の自分への小さな仕送りのようなものです。
今の自分が少し手をかけて、数ヶ月後の自分を助けてくれる。
それが保存食作りの大きな魅力です。
保存食は、特別な料理ではなく日々の味方
保存食というと、昔ながらの丁寧な暮らし、手間のかかる台所仕事、という印象があるかもしれません。
たしかに、少し手間はかかります。
梅のヘタを取る。
山椒の実を枝から外す。
らっきょうの下処理をする。
赤しそを洗って塩もみする。
きゅうりやみょうがを漬ける。
ひとつひとつの作業は、派手ではありません。
むしろ地味です。
でも、その地味な作業の先に、日々の食卓を助けてくれるものが生まれます。
保存食は、特別な日のためだけのものではありません。
ごはんに添える。
おにぎりに入れる。
和え物に使う。
たれに混ぜる。
ドレッシングにする。
肉や魚に合わせる。
少しあるだけで、いつもの料理に季節の香りや酸味、旨みが加わります。
作った保存食を日々の料理にどう使うか。
そこまで含めて、保存食作りの楽しさだと思います。
「面倒くさい」と「楽しい」は、意外と近い
保存食作りは、正直に言うと面倒です。
梅のヘタをひとつずつ取るのも、山椒の実を枝から外すのも、らっきょうの下処理をするのも、手間がかかります。
買えば済むものもたくさんあります。
市販の梅干しも、梅シロップも、らっきょう漬けも、山椒の佃煮も、簡単に手に入ります。
それでも、あえて自分で作る。
そこには、効率だけでは測れない楽しさがあります。
手を動かしているうちに、素材の香りが立ってくる。
作業をしている間に、季節の中にいる感じがする。
瓶に詰めたものが少しずつ変化していく。
完成したものを食べたときに、
「ああ、作っておいてよかった」
と思う。
面倒くさいことと、楽しいことは、意外と近いところにあります。
手間がかかるからこそ、出来上がったときにうれしい。
時間がかかるからこそ、使うときに愛着が湧く。
保存食作りには、そんな楽しさがあります。
素材の旬は短いからこそ愛おしい
一年中、いろいろな食材が買えるようになりました。
けれども、保存食作りの素材には、今でも「その時期だけ」のものがたくさんあります。
青梅が並ぶ時期。
完熟梅の香りがする時期。
実山椒が出回る時期。
赤しそが山積みになる時期。
みょうががたくさん出てくる時期。
きゅうりが安く、おいしくなる時期。
その短い時期を逃さずに仕込むから、保存食は楽しいのだと思います。
いつでもできることではない。
今だからできる。
その感覚が、台所に季節を連れてきてくれます。
スーパーの売り場で季節を感じる。
素材の香りで季節を感じる。
瓶の中で変化していく様子で季節を感じる。
保存食作りは、食べ物を保存するだけでなく、季節を暮らしの中に保存することなのかもしれません。
未来の食卓を少し豊かにする
夏に仕込んだ保存食は、すぐに全部食べるものではありません。
少しずつ使いながら、季節をまたいで楽しみます。
暑い日に飲む梅シロップ。
秋のごはんに添える梅干し。
冬の鍋や煮物に使う山椒。
カレーの日のらっきょう。
忙しい日のきゅうりの漬物。
食卓に少し添えるだけで、
「あのとき仕込んだものだ」
と思い出します。
それは、ただの一品ではなく、過去の自分から届いた小さな贈り物のようなものです。
保存食作りは、今すぐの自分のためだけではありません。
数週間後、数ヶ月後の自分のためでもあります。
未来の食卓を少し豊かにするために、今、手を動かす。
そう考えると、保存食作りはとてもやさしい台所仕事だと思います。
今年の夏も、何かひとつ仕込んでみませんか
梅干しでも、梅シロップでも、らっきょうでも、山椒でも、みょうがでも、きゅうりでも。
全部やろうとしなくても大丈夫です。
何かひとつでも、季節の保存食を仕込んでみる。
それだけで、数ヶ月後の食卓に楽しみがひとつ増えます。
瓶の中で少しずつ変化していく様子を見る時間。
完成を待つ時間。
出来上がったものを料理に使う時間。
誰かに食べてもらう時間。
保存食作りには、作っているときだけではない楽しさがあります。
夏の保存食作りは、未来の自分への小さな仕送り。
今年の夏も、台所で季節を少しだけ閉じ込めてみませんか。
